本研究は日本近代国家形成時期における警察制度の特徴と日本人が持っていた警察に対するイメージを中心に紹介・考察するものである。日本の近代国家建設と同時に進められた警察制度の導入は、明治新政府の「近代化」施策に対する農民や士族などによる反政府闘争および、「自由民権運動」に対応する形で行われた。そのためにフランスやプロシアの中央執権的警察制度をモデルとした警察機構の整備が進められ、日本の警察は国家警察的な性格を強く帯びるようになった。そして、同時に日本の警察は行政警察業務の一環として衛生・風俗・消防など幅広い分野の領域の業務を遂行していったが、警察は政府が押し進める「近代化」施策を強制する物理的な力として一般民衆の日常生活にまで介入した。このような過度な介入は日本人の反発を招き、警察に対する揶揄、暴行および警察署を襲撃する大規模な暴動まで起きるようになった。特にコレラに対する警察の検疫活動が民衆の反発を深化させる要因となった。警察による強制力を伴う日常生活に対する過度な介入は、しばしば暴力的に行われたため、警察に対して形成された日本人のイメージは恐怖と忌避の対象というものであった。特に明治初期における警察の出身が武士階級に片寄っていた事実は、一般民衆に対する権威的で傲慢な態度で表われ、これは「近代化」施策の尖兵であるはずの警察が却って「前近代的」な性質を強調する結果になってしまった。このようなイメージは警察を蔑む態度に繋がった。当時、警察巡査の生活水準は極めて低く、これも民衆が警察を無視し、冷やかす原因ともなった。一方、自由民権運動を主導していた民権家らは警察に対し一般人に持っていた恐怖、忌避のイメージとは少し異なったイメージを持っていた。民権家らは政治活動に介入․弾圧する警察に対し、民衆の自由を制限する専制政府の走狗、民衆の敵というイメージを持っていたと思われる。つまり、明治政府の近代化施策の尖兵としての役割を担当していた日本の警察は、その強圧的な国家警察および幅広い行政警察の実施のため、日本人に警察の暴力性と前近代性を刻印し、恐怖、忌避、無視の対象というイメージを形成するようになったのである。