本研究は、戦争を通じて国家構想を実現せんとした帝国日本の戦時体制のなかにおける新聞のあり方を分析することを目的としている。戦時体制が強化されてゆくことにつれて国家権力は新聞に対してあらゆる弾圧を加えていたにもかかわらず、実質的には新聞の発行部数が急激に増大される現状に対してその裏に作用する言論の二つの側面、すなわち真実を報道する公器としての側面と、激しい競争に露出されて営業上の利益を確保しなければならない経営主体としての側面から分析しようとするものである。ただ単に、言論弾圧が強制され、それによって仕方なく言論が帝国に同調していったという説明だけでは同じ権力への同調ではあるものの、そのあいだで発見される微細な差異の原因と結果を正しく捉えることはできないであろう。言論機関から宣伝機関に成り下がった新聞を取り上げ、「新聞と戦争」の問題を考え直してみたい。