『源氏物語』に語られた唯一の斎宮であり、母との仲の格別な主人公であり、中宮にもなり、六条院秋の空間の主でもある秋好を、背景として主に語られた春秋を中心にその生の意味するところについて考察した。「葵」、「繪合」、「胡蝶」、「行幸」、「真木柱」、「梅枝」、「若菜下」、「柏木」に至る春には、光源氏の後見による秋好の、宮中での名實ともに重視されるようになる中宮としての姿と、光源氏への感謝の気持から六条院の秩序と繁榮に寄與する、運命的な生の有様が表れた。「葵」、「賢木」、「澪標」、「薄雲」、「少女」、「玉鬘」、「野分」、「藤袴」、「鈴虫」、「御法」に至る秋には、母との格別な關係を通じて、秋好の變化し成長する內面的な世界が表れた。秋好は、母の生前には母と供にする嬉しさを、母の死後には深い悲しさと恋しさを感じつつもその思いを内面深く秘め、やがて亡き母への恋しさを表したことに反省しながら、榮華に相応しい品格を備えた人物へと成長していく。深まる秋のように内面的に深まる亡き母への永遠の恋しさにより、最高の品格をも備えるようになるのである。そしてついには母の心の痛みまでも悟るようになり、母の望みどおりの道心を抱き佛敎供養をしながら、人生無常という生の本質を悟る境地にまで至るのである。秋好は、春には運命のように榮華を達成するが、秋には格別だった母への永遠の恋しさを内面深く秘めることにより人生無常を悟る境地へと昇華される。親子の関係、特に心の繋がりの永遠性もまた表れる。従って『源氏物語』の秋は、秋好の人生が反映されることで、悲しい秋、寂しい秋以上の、母への永遠の恋しさを内面に深めることにより人生無常を悟る境地へと昇華されいく生の意味をも担った、さらに深みのある自然のイメージをもつものとして理解できるのである。