本稿は、新たな資料発見に基づき、従来その編者が不明であった『朝鮮童話集』の編者が田中梅吉であることを明らかにした。田中は1916年末に朝鮮に渡り、朝鮮説話を広く集めて、ドイツ留学を経て1924年に『朝鮮童話集』などを刊行した。先行研究ではグリム研究家․ドイツ文学者として知られているのみで、朝鮮説話に関わったことについては言及されずに今日に至っている。『朝鮮童話集』は朝鮮初の童話集として、グリムにも精通していた田中によるものであっただけに、読み物として一定の完成度を保っており、その後の朝鮮における童話の改作にも影響を及ぼし、今日の童話にもその影響が残っていると思われる。田中は1910年代に採集した説話を、1920年代に入り、朝鮮児童の教化のために説話を改作して、童話集に収めた。田中の改作は、あらすじ及び話型を維持しながら、表現と心理描写を加える方向でなされた。田中は1910年代に民俗学に基づいて採集者として役割に忠実して昔話をまとめたが、1920年代になり児童教育のための童話の重要性が高まり、説話を再話したといえる。『童話集には、登場人物の心理などが詳しく描写されており、「天皇制近代国家に相応しい良い子づくり」のための目的で、教訓的な童話に仕上がっている。