本稿は、待遇表現の背景にある文化的影響や日本人の論理構造を中心に調査を行った。多様な待遇表現言語形式や待遇表現言語行動において、相手への気配りという基本的な概念は勿論、複雑な構造の根幹には「世間(体)」という日本独特の概念があり、集団の中での個人の行動原理が働いていることが分かった。調査結果を次のようにまとめることができる。 1.待遇表現のうち、「上下」の概念の尊敬と謙譲語は時代の移り変わりにつれ薄れてきて、「内外」と「親疎」概念の強い丁寧語の方が広がっている。 2.待遇表現の背景には日本人の行動原理の基本の一つである「世間」意識が強く働いていると言える。 3.日本人の文化的特性は、集団での自分の位置をわきまえて適切に行動するよう幼いころから教育を受け、さらにそうした社会雰囲気の中で育っていくので、自然に「世間(体)」の中に落ち着くのである。 4.その「世間(体)」こそ、現代日本社会を構成する中心的概念であり、日本の文化の真相といえる「和」の中枢を成す実体ではないだろうか。